きみに初恋メランコリー
扉の前で、小さく深呼吸をひとつ。

そうして無理やり心を落ち着かせたわたしは、そっと、目の前の扉をスライドさせた。



「あ。花音ちゃん、こんにちは」



窓の外を見ていたその人物は、わたしの存在に気づくと、こちらを振り返って笑ってみせた。

その変わらない笑顔に安堵しながら、そして胸をときめかせながら、わたしも小さく笑みを浮かべる。



「──奏佑先輩。こんにちは」



そう返しつつ、わたしはカラカラとドアを閉めた。

ピアノに近づいていくと、先輩は体ごと、こちらを振り向くかたちになる。



「そういえば、花音ちゃんもうすぐピアノのコンクールなんだよね。聴いてみたいな、花音ちゃんの競うためのピアノ」

「え……ま、まだ練習途中なんですよ」

「いーからいーから。未完成でも何でもいいから、聴かせてよ」



……ずるい。そんなやさしい顔で見つめられたら、断ることなんて、できなくなる。

笑顔でほだす先輩に根負けして、結局わたしは、鍵盤の上に両手を置いた。
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