きみに初恋メランコリー
「あの……ベートーヴェンの、ピアノソナタ第3番、って曲なんですけど……」

「うん。お願いします」



まるで、子どもの発表会を観に来たみたいに拍手をしてくれる奏佑先輩の視線を受けながら、ふぅ、とひとつ息を吐く。

そしてわたしは、メロディを奏で始めた。


ひたすら手を動かしながら、わたしは考える。

ベートーヴェンは、この曲を通して聴いた人にどんなことを感じて欲しかったのか。

どう演奏することが、彼が作った曲に1番近づけることができるのか。



『いいかい、花音。音楽は、技術だけがすべてではないよ。いかにそこに、心を乗せられるかだ』



……ねぇ、おじいちゃん。

わたしは少しでも、あなたが誇れるピアニストに、なっているかな?


そうしているうちに、曲は終わりを迎える。

……よかった。一応、ミスしないで弾けた。

わたしは深く息を吐きながら、そっと鍵盤から手を離した。
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