きみに初恋メランコリー
──コンコン。

自分の部屋ではあるけれど、気を利かせて一応2回ほどノックする。

中から「はいっ」と言葉が返ってきたのを確認して、俺はドアを押し開けた。



「ごめんね、お待たせー」

「い、いえ」



持っていたおぼんをテーブルに置きながら声をかけた俺に、やはり彼女は落ちつかない様子で答える。

どーぞ、とりんごジュースの入ったコップを目の前に置けば、小さく頭を下げながら「ありがとうございます」と言われた。



「悪いねー。なんか女の子の好きそうなもの、何もない部屋で」



彼女はベッドを背にするような形で、テーブルの前に腰を下ろしている。

その右横の面に座って苦笑した俺に対し、花音ちゃんはまた首を横に振った。

そしてふわりと、頬を緩める。



「いえ……奏佑先輩らしい部屋で、素敵です」

「……そうかな。ありがとう」

「はい」



サッカー雑誌が並ぶ本棚に、壁に貼ったサッカー選手のポスターやレプリカユニフォーム。

そして勉強をするはずの机の上には、我が物顔のサッカーボール。

そんな偏った趣味の部屋を見ても、彼女は素敵だと言って、笑う。

その笑顔に、胸の奥で何かが暴れ出しそうになるのを感じる。俺はそれをごまかすように、ジュースをのどへと流し込んだ。
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