きみに初恋メランコリー
しばらく、他愛もない話をしていた。

花音ちゃんもこの家に足を踏み入れた当初よりは、幾分、緊張も和らいだようだ。

そして俺がトイレのために1度その場を離れ、再び部屋へと戻って来たとき。

彼女は座ったままベッドの方を向き、ドアを開けた俺にも気づかず、何かを熱心に眺めているようだった。



「……? 花音ちゃん、何見て──」

「へっ、あ、せんぱ……っ」



声をかけた俺にようやく気がついて、こちらを振り向く。

と、そこで俺も花音ちゃんの手元にあるものを理解し、慌てて彼女に近づいた。



「ちょっ、それはダメ! 恥ずかしい!」

「ごめんなさっ、もうちょっと~!」



言いながら彼女が隠すように死守しているのは、俺が中学のときの卒業アルバムだ。

どうやら雑誌に紛れて本棚につっこんであったものを、花音ちゃんは見つけてしまったらしい。

ジタバタと暴れる花音ちゃんに、俺も負けじと必死で手を伸ばす。



「コラコラ、いい子だから寄越して!」

「まだ先輩のこと見つけられてないんですよ~っ」

「ならなおさら没収!」



言いながら、俺はぐっと思いきって身を乗り出した。



「きゃ……」

「うわっ」



すると目の前の花音ちゃんが、アルバムを持った手を上げたまま、ぐらりと体勢を崩した。

とっさにそれを助けようとした俺自身も、勢い余って前のめりになってしまう。
< 170 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop