きみに初恋メランコリー
・切なくて甘い痛み
「……じゃあ、そろそろ行こっか」
奏佑先輩のその言葉に、わたしはスカーフを整える手を止めて、はい、とうなずいた。
腰かけていたベッドから立ち上がるとき、体になんともいえない痛みが走ったけれど……わたしはそれを堪えて、床にあったかばんを持ち上げる。
先輩は、制服からグレーのパーカーにジーンズという、カジュアルな服に着替えていた。その背中に続き、部屋から足を踏み出す。
「……ん」
「え?」
「かばん。俺が持つ」
玄関を出る直前、差し出された左手のひらに思わず首をかしげると、先輩はそう言ってわたしの手からかばんを奪った。
そして空いた右手で、わたしの左手をつかまえる。
予想外のことに、思わず息を止めた。
「花音ちゃんの手、小さいなー。よくこんなんで、あんななめらかにピアノ弾けるね」
言いながら先輩は門を押し開けて、外の道に出る。
手を引かれるわたしも、その後を追って門を抜けた。
わたしの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれている先輩。
夕日のオレンジが、その焦げ茶色の髪を染めていた。