きみに初恋メランコリー
「花音ちゃん、顔上げてよ」



先輩のやさしい声に導かれるように、ゆっくりと、顔を上げていく。

視線の先の先輩は、やはりやさしい表情で、微笑んでいた。

またわたしは、飽きることなく胸をときめかせる。



「せ、せんぱ……」

「目、閉じて。花音ちゃん」



言いながら先輩はどんどん、顔を近づけてきた。

頭が沸騰してしまいそうなわたしは、それでもぎゅっと、きつく目をつぶる。


少しの間の後、くちびるに、やわらかい感触が降ってきた。

それは数秒だけ押しつけられて、またすぐに、離れていく。

そっとまぶたを開けると、目の前に、先輩の微笑みがあった。



「ふふ。花音ちゃん、物足りなさそうな顔してるよ?」

「っふぇ、え?!」

「あはは」



真っ赤になって動揺するわたしに、声を出しながら笑って。奏佑先輩は、再び歩き出した。

手を引かれて隣を歩きつつ、わたしは彼の顔を盗み見る。

前を見て足を進める、その口元には、小さな笑み。



「……ッ、」



……ああ、だめだ。

なんだか、こんなのって。

まるで普通の、恋人同士みたいで。

まるで普通の、恋人同士みたいに、先輩が笑ってくれるから。

勘違いしてしまいそうに、なってしまう。
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