きみに初恋メランコリー
♩︎*゚Track:7
・ちっぽけな自分
「乾。頼むから、俺を殴ってくれ」
俺の言葉が完全に言い終わるより先に、ゴン、と頭をにぶい衝撃が走った。
声にならない声を上げながら、思わずその箇所を両手で押さえてしゃがみ込む。
目の前で英和辞典片手に仁王立ちする乾が、きょとんと首をかしげた。
「え、なに、なんで?」
「理由訊く気あんなら、せめて実行する前にしろよな……」
恨めしげにそう言って、俺はよろよろ立ち上がる。
そうして窓枠に背を預け、深く、ため息を吐いた。
「いやまあ、理由は言えないんだけど」
「んだよそれ、俺の殴り損だろー」
「今の一連の流れで、おまえはどこで損したんだよ」
ざわざわと騒がしい休み時間の教室で、特に俺らの会話に耳をそばだてるような人なんていない。
そんな空間で俺は、昨日花音ちゃんの家の前で別れる間際、彼女が見せたどこか切ない笑顔を思い出していた。
「………」
昨日、彼女に触れた。
俺たちは、“本当の恋人”ではないのに。それなのに俺は、彼女に深く触れたのだ。
……まどかのことにも、きっと聡い彼女は、気づいてしまったと思う。
そして間違いなく、傷つけたんだ。