きみに初恋メランコリー
「せ──」



自分のすぐ近くに、思いがけなく先輩の顔。

ガタ、と音をたてながら、わたしはとっさに、椅子から立ち上がった。

ゆっくり、先輩がこちらに向き直る。



「せ、せんぱい、」

「……ねぇ、花音ちゃん」



彼が1歩踏み出すたび、わたしの足も自然と、距離をとるように後退していく。

だけどもあまり時間をおかず、あっけなく、わたしの背中は壁にぶつかった。

すぐ目の前で、先輩も立ち止まる。



「まどかに、自分の気持ちを、正直に伝えろって? ……“きみが”、それを言うんだね」



奏佑先輩はわたしの顔の両脇に手をついて、ゆっくりと囲い込んだ。

口元には、笑み。だけどその細められた瞳は、いつものあたたかさなんて、微塵も感じられなくて。



「──きみは、俺のことがすきなんでしょう? 花音ちゃん」

「……ッ、」



その言葉に、声に、表情に。

ガツン、と頭を殴られたような、そんな衝撃だった。

先輩は冷たい微笑みをはりつけたまま、右の指先で、わたしの髪をもてあそぶ。

そうしてその手が首筋を通って、わたしのあごに、添えられた。

ハッとして、その手を拒む。
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