きみに初恋メランコリー
・彼女の音色
きっと。
あのとき自分は、うなずくべきじゃなかった。
「まあとりあえず、今日はこんな感じの練習メニューやらせてみて……様子を見るってことでいいですかね」
「ああ、それで任せる。ご苦労さん」
「わかりました。失礼しましたー」
廊下に出る前一度室内に会釈して、普段よりも丁寧にドアを閉めた。
昼休みの職員室。最初こそ緊張したものの、何度か訪れるうちここに来るのもすっかり慣れてしまった。
意外と、俺みたいに部活の顧問と話してたり、教科担任に用のある生徒がちらほらいるんだよな。とはいえ、できればあんまり行きたくない場所ではある。
「(……ま、ただ少し疲れがたまってただけっぽいから、心配はいらねーだろうけど)」
職員室のドアの前で、小さくため息を吐く。
なんだか右太ももが張ってる気がする、と朝練でこぼしたのは、自分が部長を務めるサッカー部の、デリケートな性格のエースストライカーだ。
おそらく故障などではないと思うが、今日の放課後は用心して、いつもより練習を軽めに留めておくにこしたことはないだろう。
両手を上に挙げ、ぐっと伸びをする。
俺は自分の教室に戻るべく、階段のある方向へと廊下を歩き出した。