きみに初恋メランコリー
「……ありがとう、刹くん。刹くんの気持ちは、本当に、うれしいです」

「じゃあ──」

「でも、ね、」




刹くんの言葉を遮って、わたしは髪に触れる彼の手をそっと掴む。

そしてその手を、下ろした。



「……ごめんなさい。わたしは、刹くんとは付き合えないよ」

「か──」



……もしかしたら、この手をとることが、わたしにとって最良の選択なのかもしれない。

でも、“最良”って何?

自分の気持ちを偽って、それを手に入れたって。

そんなのきっと、誰も幸せになれない。



「わたしと奏佑先輩は、結局、うまくいかなかったけど……だけどわたしはやっぱり、こうしてる今も、奏佑先輩のことがすきなの」

「………」

「だいすき、なの」



言いながらわたしは、彼に向かって微笑んでみせた。

それはきっと、殻に閉じこもってたあの頃には、できなかった。

精いっぱいの強がりを集めて浮かべた、笑顔だった。
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