きみに初恋メランコリー
「……なーんだ。やっぱり俺、ただの当て馬じゃん」

「え?」



つぶやいた言葉を聞き取れなかった俺に、そいつは「なんでもないっす」と微笑む。

そうして持っていたカバンを、肩にかけ直した。



「こっちの話です。……後輩への熱ーいお言葉、どーもでした」

「……うぜぇなおまえ……」

「口悪いっすねー。そっちが素ですか?」



言いながらまた笑って、「じゃ、俺は職員室に用があるんで」と、肩をすくめてみせる。

なんだか釈然としない気分でいると、そいつがふと、思い出したように口を開いた。



「ところでセンパイは──花音がピアノのコンクールで優勝した話、ご存知ですか?」

「……知ってるけど」



風の噂で、聞いたその話。

いやまあ、それの『おめでとう』すら、今の俺にはまだ言えてないんだけど。

つーかコイツ、花音ちゃんのこと普通に呼び捨てにしてるよな。腹立つな。
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