きみに初恋メランコリー
ぐるぐると関係のないことにまで敵対心を感じていた俺に、そいつは笑みを浮かべたまま、再度口を開いた。



「へぇ。じゃあ、“あの話”も聞きました?」

「……あの話?」



なんだか聞き覚えのなさそうなその話題に、思わず食いつく。

するとなぜか目の前の人物は、わざとらしいほどのきょとん顔で、首をかしげた。



「あれ、知らないのか。結構有名になってると思ったんだけどな」

「……なんの、話だよ」



俺のその問いを待ってましたとばかりに、そいつはまたわざとらしく、笑みを浮かべる。



「そのコンクールって、結構デカイやつだったらしくて。優勝の副賞が豪華なんですよ」

「……なに……」

「花音、留学するんです。フランスに、3年間」

「──え、」



ガン、と、頭を殴られたような衝撃が走る。


……留学?

3年間……花音ちゃん、が?



「花音、小学生の頃から、『ピアノの勉強のために外国に行きたい』って言ってたから……『夢が叶ってよかったな』って、話してたんです」

「………」

「ああ、ほんとに知らなかったんですね。じゃあ、これも知らないか」



そう言ってそいつは、小さく口角を上げる。



「急だけど、今週末、日本を立つらしいです。なんか、早くここを離れたい、理由があるらしくて」

「……ッ、」

「それじゃあセンパイ、俺行きますんで」



その場に立ち尽くす俺の横をあっさりとすり抜け、そいつは去って行った。

残された俺は、たった今聞かされた話が衝撃的すぎて、すぐには動けない。


……花音ちゃんが、いなくなる?

俺はまだなにも……伝えられて、いないのに?


そしてふらふらと、覚束ない足取りで、ある場所へと向かった。
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