きみに初恋メランコリー
いつもは彼女が座っていた特等席に、ゆっくり、腰をおろす。

そうしてそっと、黒い蓋を押し開けてみた。

濃い紫色の布をはずすと、現れたのは白と黒のコントラスト。


適当な場所をひとつ、鍵盤を指で押してみる。

ポーン、とその音は思ったよりも響いて、そして少しの余韻を残してから、消えた。



「……ん?」



ふと目についた、足元にある金色のペダル。

その影に何か白いものが見えて、俺は1度椅子を下りてから、屈んでそれを拾ってみた。



「……なんだ、」



なんの変哲もない、ただの四つ折りにされたルーズリーフだ。

綺麗好きな花音ちゃんが、こんなところにゴミを捨てるとは考えられない。きっと、誰か別の人物がこの部屋に入ったときにでも捨てていったか、はたまた落としていったか。

俺はもう1度椅子に腰かけながら、なんともなしに、その無造作に折りたたまれた紙を広げてみる。

広げて、みて──俺は、思わず目を見開いた。
< 220 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop