きみに初恋メランコリー
「あのクソガキ……わざと俺にハッパかけやがった……」

「え?」

「……いや、こっちの話」



なんだかすごくこわい顔をしていた先輩は、わたしの声を聞いて小さく首を振った。

そして、ふーっと細く、息を吐き出す。

改めて、腕の中のわたしと視線を合わせた。

──どきん。また大きく、心臓がはねる。



「……ねぇ、花音ちゃん。聞いて欲しい話が、あるんだ」



真剣な表情の彼に気圧され、無言のままうなずいた。

先輩の指先が、わたしの左の頬に触れる。



「俺ね。こないだまどかに、自分の気持ち伝えたよ」

「え」

「伝えて、わかったんだ。……俺のこの気持ちはもう、過去のものなんだって」



耳に届いたセリフは、予想外のものだ。

思わず目を丸くするわたしの視線の先で、先輩はとてもやさしい表情をしていて。



「まどかに対しての恋愛感情は、いつの間にか、消えていた。そして今は誰が、1番大切なのか……ようやく、わかったんだ」



まっすぐにわたしを見下ろしながらそう言うから、息がうまくできない。

きっと今のわたしは、とても情けない顔をしているのだろう。



「俺が今、1番大切にしたいと思うのは──」



先輩の手が、わたしの髪を耳にかけた。

そしてわたしの大好きな顔で、笑う。
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