きみに初恋メランコリー
思わず漏れたつぶやきに、自分でも『しまった』と考えたと同時。

ぴたりと、ピアノの音が止んだ。

弾かれたようにこちらを向いたその顔は、ひどく驚いたような表情をしている。

バツが悪くて、ついため息を漏らしてしまいそうになった。けれど俺は仕方ないとあきらめ、後ろ手にドアを閉める。



「えーっと……ごめんね、演奏の邪魔して」

「………」

「あのー……俺のこと覚えてるかな。土曜日にあった合コンにいた、長谷川っていうんだけど」



う……これは絶対引かれてる感じだなあ。

そりゃそうか。せっかく気持ち良くピアノ弾いてるとこに、あやしげな男が乱入してくれば。



「……え、ソウスケ、せんぱい……?」

「あ、覚えててくれてた?」



未だ固まった状態のまま、それでも聞こえてきた小さなつぶやきに、ほっと胸を撫で下ろす。

よかった。少なくとも、これで俺がただのナンパ男だとは思われないで済んだかな。
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