きみに初恋メランコリー
……人形、みたいなコだな。

あの日『ツキダテ カノン』と自己紹介した彼女を今初めてまじまじと見て、ぼんやりとそう思う。

別に、悪い意味なんかじゃない。ただ単純に、つくりが綺麗だと思ったんだ。

どこか儚げな雰囲気と少し幼くも見える顔立ちに、茶色いウェーブがかった長い髪がよく似合う。



「すごいね、ピアノ弾けるんだ」

「え、あ、はい……」



俺がピアノに近づきながら言うと、彼女はパッと鍵盤に視線を落としてうなずいた。

そして俺はそこで、唐突にあることを思い出す。



「ああ、そっか、今わかった。俺が、なんで花音ちゃんの顔に見覚えがあったのか」

「え?」



たしか花音ちゃん、少し前にピアノのコンクールで入賞したとかで、全校集会のとき表彰されてた。

そうか、それで彼女の名前の響きと顔に、どこか覚えがあったのか。

なんとなく呆けているような花音ちゃんの視線にも構わず、俺は勝手に納得して満足した。

こうやって思考の一部分しか口に出さず頭の中でごちゃごちゃと考え、そしてあげく自己解決しまうのは、典型的なAB型である自分の悪い癖だと思う。

この癖のせいで、「部分的に言ったことはちゃんと最後まで口に出せ!」と何度周りの人間に言われたことか。
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