きみに初恋メランコリー
「ピアノ、ここでよく弾いてるの?」

「はい……」

「そっか。ここ落ちついてて、すごく居心地いいね」



休み時間の喧騒もあまり届かないし、外からはあたたかい日差しが入ってきている。

加えて、彼女の弾くピアノの音色。休み時間を過ごすには、それってすごく、贅沢だ。

室内に目を走らせていた俺はふと、閉めきられた窓に気づく。



「……もったいないな」

「え?」

「窓、思いきり開けてさ。そのピアノ、いろんな人に聴かせてあげればいいのに。せっかく綺麗なんだから」



目を丸くする彼女に、俺はそう言って笑ってみせた。

花音ちゃんのピアノ、さっき初めて聴いたけど……コンクールで入賞するような腕前だってことが、ド素人の俺でもわかる。

それくらい、人を惹きつける音色だったんだ。


俺の素直な感想に、花音ちゃんはどうしたらいいのかわからない様子で、あわあわと視線を鍵盤に走らせていた。

だけどひざの上に置いた両手をぎゅっと握りしめ、また、小さくつぶやく。



「あ、ありがとう……ございます……」

「うん」



彼女の言葉を耳に入れ、思わず頬が緩む。

なんだろう、これは。もし自分に妹がいたら、こんな感じなんだろうか。

うつむいた髪の隙間から見える頬が赤くなっていて、なんだか微笑ましい。
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