きみに初恋メランコリー
「うん、いいよ。むしろよろこんで来させてもらう」

「あ……ありがとうございますっ」



そう言ってパアっと表情を明るくした花音ちゃんは、本当にうれしそうに見える。

いいのかな、俺なんかが聴きに来るくらいで。

でもそうだよな、サッカーだって同じで、観客がいた方が燃えるよなあ。


そう結論づけた俺はにっこりと笑みを返して、ドアの方へと踵を返しかけた。



「俺、教室戻ろうと思うんだけど……花音ちゃんは?」

「あ、ちょっと片付けてから、行きます」

「そっか」



ガラガラと引き戸を開けて、廊下の空気を肌に感じる。

完全に部屋から出る直前、俺はもう一度、彼女を振り返った。



「それじゃあ、また今度ね」

「……っはい!」



黒いグランドピアノの前でふわりと笑う花音ちゃんは、窓から差し込む光の中とても輝いて見えて。

俺はそれを眩しく感じながら、ドアを閉めた。
< 27 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop