きみに初恋メランコリー
・やさしさの理由
「長谷川、購買行かねぇ?」
そう言って前の席の乾(いぬい)が振り返ったのは、昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った直後のこと。
俺は適当に教科書を机に突っ込みながら、「いーよ」と返した。
「そういや長谷川って、2限目終わったあたりでも弁当か何か食ってなかった?」
「ああ、アレは家から持ってきてる早弁用の弁当」
「うげ、どんだけ食うのおまえ……」
並んで階段を下りつつ、乾が眉を寄せる。
俺はいたってあっさりと答えた。
「仕方ないじゃん。朝練やってりゃ腹減るし、授業で頭使っても腹は減るし。知ってた? 人間って、体動かすよりも頭使った方が腹減るんだってよ」
「へぇー……」
あまり筋肉質とはいえない長身+比較的穏やかな性格+黒縁のメガネ。
そんな見かけの印象を裏切らず文化系(ちなみに美術部所属)の乾は、俺の話を聞いて若干引き気味の眼差しを向けてきた。
確かにまあ、体育会系というもっともらしい理由を差し引いても、俺は昔からよく食べる方ではあったけど。自分ではこれが普通なんだから仕方がない。