きみに初恋メランコリー
「びっくりした。あの教室以外で会うのは初めてだね」

「は、はい」



目の前で未だ戸惑っている様子の彼女とは、あの一件以来すでに数回顔を合わせている。

けれどもそれは、あくまで“昼休みに例の空き教室で”という域を出なかった。

やっぱり学年が違うと、同じ校内にいても意外と会わないものなんだよな。



「なに長谷川、知り合い?」



カウンターとは違う方向に進んだ俺に追いついた乾が、隣に並んで疑問を口にする。

乾の存在に気づいた花音ちゃんは、びく、と少しだけ身を引いた。



「あ、わりー乾。えーっとホラ、昼休みのピアノのコ」

「……ああ」



軽く謝罪しつつ簡単に説明すると、乾は合点がいったように目をまたたかせた。

最近俺がしょっちゅう昼休みに教室から姿を消す理由を、なんとなく知っているのだ。



「花音ちゃんも、昼飯購買?」

「あ、はい。ほんとはわたし、いっつもお弁当なんですけど……今日はたまたま、忘れてきちゃって」

「そっか」



だけどそのわりに、視線を落とした彼女の手元には財布しか握られていない。

俺は小首をかしげて、また口を開いた。
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