きみに初恋メランコリー
・消せない記憶
あの頃からわたしは、立ち止まったまま。
「月舘ー」
自分を呼ぶ男の子の声に、びくりと体が反応する。
席についたまま顔だけ上げると、目の前に1冊のノートが差し出された。
「さっき、職員室の前で村上せんせーから預かった。月舘に返しとけって」
「……あ、りがと、う」
ノートを受け取りながらも、決して目の前の彼とは視線を合わせない。
相手に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ボソボソとお礼を伝えた。
「じゃ、たしかに渡したから」
クラスメイトの彼は特に何も気にしていない様子でひとこと残し、わたしたちから離れていく。
「……花音、もうちょっと愛想良くお礼言ってあげたら? さすがにかわいそうだわあれじゃ」
「う……だってぇ~」
ノートを返してくれたクラスメイトには聞こえないよう、声を小さくして呆れたように話すしおちゃん。
同じく音量を抑えて返すわたしの声音は、我ながら情けないものだ。
今はもう9月の終わり。つまり、春にあったクラス替えからは半年ほどが経っている。
けれどわたしはいくら同じクラスの男の子といえども、未だに先ほどのような堅い態度で接してしまう。傍から見れば、まるで初対面の人と話しているみたいかも。
自分でもこんな態度ではいけないと思っているだけに、しおちゃんの容赦ない言葉は耳に痛いのだ。