きみに初恋メランコリー
「花音ちゃん、もしかしてサッカー部の練習見に来てくれたの?」

「え、あ……はい」

「そっか。おもしろいかどうかわかんないけど、ゆっくり見といでよ」

「は、い」



コクリと彼女がうなずいたのを確認して、部員たちのいるベンチのあたりへと戻ろうとする。

その俺の肩に、がしっと背後からゴツい腕がまわされた。



「なにこの子、ハセの彼女?」

「……本間(ほんま)」



むさ苦しい男の密着にうんざりした顔をしながら、俺はそのチームメイトの名前をつぶやいた。

ギリギリ許される程度に染めた茶髪に、少しタレた瞳。ミントのようなハーブ系の制汗剤の香りが、そいつからふわりとただよってきた。

フェンス向こうの花音ちゃんは、突然のこの男の登場に、きょとんと目をまたたかせている。



「違うよ本間、彼女とかじゃなくて。このコは1年生の、月舘 花音ちゃん」

「へ~」

「あ、こ、こんにちは」



そう言って彼女は、ペコリとフェンスの向こうで頭を下げた。

にっこり、未だに俺の肩に腕をまわしながら、すぐそばにある顔が笑みを浮かべる。
< 64 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop