きみに初恋メランコリー

・近くて遠いひと



その手が、嫌いだった。

自分を異性としない、その手が。



「そーちゃん、いるー?」



言葉とほぼ同時に、部屋のドアが無遠慮に開け放たれた。

そこに立っていたのは、隣の家に住む幼なじみ。3歳年上で、今は女子大生のまどかだ。

俺はベッドにうつぶせたその体勢のまま、不機嫌を隠そうともせず眉を寄せる。



「訊きながらドア開けてたら意味ないだろ。つーか、いい加減その呼び名はやめろって」

「今さら何言ってんの。別にいいでしょ、昔からこう呼んでるんだし」

「もうガキじゃないんだから」



思いっきり呆れた顔をして、そっけなく返した。

まどかは「わかったわかった」とわざとらしくため息をついて、これまたずかずか遠慮なく俺の部屋に入ってくる。

いくら幼なじみといっても、お互いこの歳になって、こんなふうに家を行き来するものなのだろうか。

……いや。俺の場合はもうとっくに、そんなことはしなくなったけど。
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