きみに初恋メランコリー
「うーん、『海の見える街』かあ。確かに主人公の住むところが、そんな場所だったもんね」

「あ、はい。パン屋さんに住まわせてもらうんですよね」

「そうそう。そんな話だったなー」



言いながら、自分の記憶に思いを馳せる。



「海か、懐かしー……昔よく、家族で海行ったなぁ」

「え、そうなんですか?」



そう言って、花音ちゃんは目をまたたかせた。

ここらは海から離れた地域だから、海水浴に行こうとすると結構な遠出になるのだ。



「うん、父親がアウトドア好きでね。けど俺が中学上がった頃から部活も大変になって、あんまり行かなくなったなあ。それまでは毎年行ってたんだけど」



それに──毎回まどかの家とも、合同だったから。

思春期真っ盛りだった俺的には、それもなんとなく、気恥ずかしくなってたんだよな。



「そうですか……」



俺の話を聞いた花音ちゃんが、そんな相づちを打つ。

そしてポツリと、小さくつぶやいた。
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