きみに初恋メランコリー
・恋はむずかしい
「……え?」
思わずピアノを弾く手を止めて、わたしは聞き返した。
奏佑先輩は窓枠に背中を預けながら、相変わらず、やさしい笑みを浮かべている。
「来週の日曜日、部活休みになったんだよね。だからもしよかったら、その日海に行かない?」
「えっ、いっ、いいんですか……?!」
「あはは、だって約束してたでしょ? でももし花音ちゃんの都合が悪かったら、別の日にでも……」
「だ、大丈夫です! 行けます!」
ついどもりつつ、それでも勢いよく答えた。
奏佑先輩は一瞬目を丸くしながらも、すぐにまた笑ってくれる。
「ははっ、じゃあ決まりね」
そんな先輩の様子に、なんだかわたしばっかりが楽しみにしているようで、少し恥ずかしい。
だけど海が楽しみなことには違いないので、わたしは緩む頬を隠しもせずに、またピアノを弾き始めた。
曲目はもちろん、『海の見える街』だ。
……初めての海。
先輩と、海。
ああ、こんなに素敵なことって、あるんだろうか。