やく束は守もります
「香月ちゃん、お茶の用意もお願い!お寿司はお昼頃って予約しておいたけど、11時半でよかった?それともやっぱり12時にしてもらう?あ、英人さんって生物のアレルギーあったりしないよね?」
埃取りモップを振り回しながら、義姉の薫がキッチンに駆け込んできたので、笑顔を作って振り返った。
「薫義姉さん、アレルギーなんてないし、お昼の時間もいつでもいいよ。それから掃除もほどほどで大丈夫。そんなのこだわる人じゃないから」
「英人さんはやさしくていいねー。うちなんて・・・」
薫が鋭く睨んだ先のリビングでは、香月の兄・竜也がソファーに寝そべってテレビを見ていた。
「役に立たないのは仕方ないとして、ああしていられるとさすがにイラッとする」
「ああ、日曜日だもんね」
日曜日の午前中には、地上波で将棋の番組と棋戦の放送がある。
将棋好きで自身もアマチュア初段を持つ竜也は、観たい対局があるとテレビやパソコンの前を離れない。
「でもさすがに今日は諦めてもらう!香月ちゃんの結婚の挨拶なんだから。これより将棋を優先したら、盤駒も棋書も全部リサイクルショップに売り払う!」
意気込んでリビングに入っていった薫は、竜也からリモコンを取り上げたらしい。
「まだ時間あるだろ?」「心の準備も必要じゃないの」「別に俺は緊張しないから」「どうせ録画なんだから、後から観ても一緒でしょ!」というにぎやかな応酬が聞こえる。
仲のいいふたりに顔を緩めながら、水玉模様の茶筒を開けてみた。
中身が煎茶だとわかると、そのまま急須に入れ、さらに溜息を重ねる。
深い溜息は急須の中にまで届き、乾いた茶葉をわずかに揺らした。