やく束は守もります


今日結婚の挨拶にやってくる英人は、香月より3歳年上。
友人を通して知り合い、付き合うようになって二年の相手だ。
25歳での結婚は現代の平均よりは少し早いと思うものの、香月にとってはむしろ遅いくらい。

香月の両親はすでに他界しているため、今日は長男である竜也と義姉の薫に挨拶することになっていた。
甥っこの将と歩は、近所に住む薫の両親に少しの間預かってもらっているけれど、お昼には戻ってくる。
仕事で遅れて、次男の桂太も帰ってくる予定になっていた。
ずいぶん古くなった実家も、少し遅れたお盆のように賑やかになるだろう。

その高揚した空気に反して、香月の溜息は止まらない。

職場の同僚で友人の美優は、

「典型的なマリッジブルーね!『この人で本当にいいんだろうか?』っていう悩みは定番中の定番らしいよ」

と笑い飛ばした。
定番と言われても、香月にとっては初めての経験なのだ。
幸せそうに笑う世の花嫁の多くが、内側にこんな不安を抱えているというのだろうか。
そんな疑問を投げ掛けたところで、

「もうプロポーズ受けちゃったんだから、ここまで来たら戻るよりも進む方が楽だって!」

と力強く背中を叩かれただけだった。

茶筒を持つ左手には、ごくシンプルな婚約指輪がはまっている。
申し訳なさそうに小さなダイヤモンドがついていて、けれどその小ささでさえ、左手が疲れるような感覚がある。
確かにこれを返却するよりは、溜息をつきつつ流れに身を任せた方が楽そうだと、指輪の位置を直した。


< 3 / 82 >

この作品をシェア

pagetop