やく束は守もります
そのまま黙っていると、畳の上で何かに没頭していた少年のグループが、チラチラとこちらを見ていることに気づいた。
その少年たちに向かって、梨田が笑顔で手招きする。
「実は今、将棋教室の合宿中なんだ。昨日から二泊三日で明日まで。その生徒たち」
「合宿なんてあるんだ」
「うん。夏休みとか冬休みに」
隣に香月がいるせいで後込みしながらも、少年たちは近づいてくる。
「偶然友達に会ったんだ」
梨田が説明すると、バラバラながら「こんばんはー」とちゃんと頭を下げて挨拶する。
香月も笑顔で「こんばんは」と返すと、素直にほっとした表情をした。
『決定版!将棋名局大全』などという本を抱えていても、中身はやはり小学生なのだ。
梨田が視線で問うと、中央に立っていた少年が眉を下げながらタブレットを梨田に差し出した。
「もう詰まされそう」
梨田の手に渡ったタブレットには、将棋盤が広がっていた。
合宿なのだから将棋はさんざんやっただろうに、今も将棋ソフトをしていたらしい。
けれど、合宿に参加するほど将棋に夢中な子どもならば、どんなゲームより将棋が一番楽しいはず。
将棋しか見えていなかった幼少期を持つ香月にも、その気持ちはよくわかった。
ディスプレイをチラリと一瞥した梨田は、ふっと口元を綻ばせて、タブレットを香月に押しつけてきた。
「このお姉ちゃんも将棋強いんだ」
「え!」
動揺する香月に、子どもたちの視線が集まる。
「俺なんて瞬殺されたんだから」
「ちょっと!そんな大昔の話・・・」
香月の訴えも聞こえていただろうに、梨田はタブレットを引っ込めず、またプロ棋士に勝ったという羨望の視線が香月を追い詰め逃げ場がない。