やく束は守もります
少し奮発したお寿司が並ぶ頃、呼び戻された将と歩のおかげで狭いリビングは一度に大騒ぎとなった。
「英人さんって将棋できる?」
人見知りをしない将は、遊んでくれそうな人なら誰でも寄っていく。
好きなネタだけ選んで詰め込むと、安い折りたたみ式の盤とプラスチックの駒を持って英人の腕を引いた。
「小学校以来かな?ルールくらいはわかるけど」
「だったらやろうよ!おれ、先手ね!」
「え・・・本当に最近は全然やってないんだけど」
「英人さん、ごめんなさいね。一局付き合ってくれれば満足すると思うから。遠慮なくボコボコにしてやって」
薫の許しが出たところで、将は嬉々として駒を並べていく。
戸惑いながらも英人は駒を進めるが、
「あれ、銀って隣に行けないんだっけ?」
と駒の動かし方にさえ苦労していて、結果は当然のように将が勝った。
「なーんだ、全然弱いね」
「だからずっとやってないって言ったのに」
子ども相手だからやんわり笑いながらも、声にはわずかに悔しさが滲んでいる。
「ただいまー。よかった。間に合った」
「桂太おじちゃん!将棋やろー!」
桂太が帰ってきて、将がすぐに腕を引っ張るので、将を抱えたまま英人と挨拶が交わされる。
「お邪魔してます。内藤英人と申します」
「香月の二番目の兄で杉江桂太です。妹をよろしくお願いします」
まとわりついて離れない将を、薫が力ずくで引き剥がす。
「将、桂君はご飯まだだから後にしなさい」
「えーーーー!」
「冷蔵庫のプリン食べていいから」
「やったー!プリン食べるー!」
「桂君、イス足りないからこっちで食べて。お茶は勝手に淹れてね。あーーーー、歩!それワサビ!手洗うからおいで!」
薫が歩を連れてキッチンに下がったので、香月も席を立つ。
「桂太兄さん、お茶は私淹れてくるよ。もう終わったからここ座って。英人と竜也兄さんのお茶もついでに替えてくるね」
歩の手を洗った薫と入れ替わりでやかんを火にかけ、茶葉を交換しながらお湯が沸くのを待つ。
なんとなく会話を繋ぎながら食事をする竜也と桂太と英人。
プリンを食べる将と歩、それに付き添う薫。
その向こうに両親のいる仏壇。
香月の大事な家族が一同に会していた。
来年も、再来年も、そして数十年後も、みんな年を取りつつ、家族が増えつつ、ここにこうして集まるのかもしれないと容易に想像できる。
数十年後を見つめながら、香月はまた溜息を漏らした。
飲み残した煎茶は、茶器の底に茶葉が沈んで、どろりとした濃い緑色を作っていた。