やく束は守もります
カーテンを通して部屋を照らす朝日が、ふたりの上にも差し込んでいた。
その光にやわらかく溶けるような梨田の髪を、香月は蜃気楼でも見ているような現実感のなさで見つめる。
黒々と重たい自分の髪と真逆であるそれもまた、香月が憧れたもののひとつだった。
「おはよう」
目をつぶったまま手探りで、梨田は香月の頭を引き寄せる。
「おはよう」
「間に盤がないっていいな」
その少しかすれた声は、空気を揺らして香月の前髪に届いた。
誘われるようにふたたび目を閉じて、梨田の胸に顔を寄せる。
「そうだね」
呼吸するたび、あたたかく湿った男の人の匂いがする。
親しくしていた小学生時代でさえ記憶のない匂いに、改めて変わってしまった距離を思う。
そんな感傷を打ち砕く間抜けな音が、どちらのお腹からともなく鳴り響いた。
「腹減った」
諦めたように梨田はメガネをかける。
「私も」
ハムとレタスのサンドイッチにはやっぱりコーヒーの方が合うな、と後悔しつつ、香月はわかめのお味噌汁をすする。
目の前では梨田が二つ目のツナマヨおにぎりを、なめこのお味噌汁で流し込んでいた。
「ごめん。ご飯のこと、全っ然考えてなかった」
「ううん。私も。コンビニ寄ったのに、昨日は頭回ってなくて」
ふたりとも空腹で目覚めたけれど、冷蔵庫には調味料と飲み物くらいしか入っていなかった。
そのため、ようやく白み始めた早朝に、ふたりは近所のコンビニまで走るはめになったのだ。