お見合い相手は無礼で性悪?
婚約破棄とキスと

『おはようございま~す』

『おはよう』


無断欠勤したお陰で
翌日デスクの上には仕事が積み重ねられていた

・・・残業確定

身から出たサビと諦めつつ

一日中コツコツと仕事をこなした

そうして、気がつけば
広いフロアに一人ぽっちだった


・・・8時


卓上のデジタル時計が
意地悪したかのように進んでいる


普段なら警備の人が
2回位来ても良いのに・・・

誰もいないフロアをグルッと見渡すと

斜め後ろのデスクに
濱田トレーナーが座っていた


『・・・キャ』


小さな悲鳴に脚と腕を組んで筏を漕いでいたトレーナーが目を覚ました


『おっ、終わったかぁ』

  
『フフ』


大きな口を開けて背伸びをする姿に笑ってしまった


『愛華さんを一人に出来ないから
社長が“頼む”って・・・』


警備員さんの見回りが無かったのは
トレーナーが居てくれたからのようだ


もう一度大きな欠伸をしながら立ち上がる姿にクスリと笑いが出た


『笑ったな、さぁ、送りますよ』


筏を漕いでいたとはいえお腹も空いているはずなのに
笑顔を絶やさないトレーナーに罪悪感が込み上げる


『お待たせしたので・・
今夜はご馳走しても良いですか?』


エレベーターに乗り込みながらトレーナーを見上げるれば、お腹に手を当てて


『そうだ!腹減ってる!でも・・・
愛華さんにご馳走してもらうと後が怖いな』


クスッと笑う姿に
つられて笑ってしまった


『裏の屋台ですよ!屋台』


『後が怖いようなご馳走じゃないです』


守衛さんにフロアの鍵を返して
ビル裏の社員通用口から出ると

城山公園脇のお堀沿いに並ぶ赤提灯の屋台が手招きしていた


『さぁ、お腹いっぱい食べるから覚悟して!』


トレーナーはお腹を摩りながら先に暖簾をくぐった


『いらっしゃいませ〜』
 

捻り鉢巻きの大将に迎えられ
ラーメンを注文する
トレーナーはそれだけでは足りないらしく
おでんも注文した

食べながらショッピングセンターの雑貨屋さんの話になった

そんな私とトレーナーを見ながら
『お二人さんはお似合いだねぇ』

大将はおでんに辛子を追加してくれた


・・・お似合い?


トレーナーとは雑貨店巡りをしたことも
外回りをしたこともあるけれど
そんなこと初めて言われた

違いますって訂正しようとした私より先に


『そうだろ?』


トレーナーはそう言うと得意げに笑った


・・・え?

驚いた視線の先にサラッと片目を閉じるトレーナーの笑い顔


・・・これは

わざわざ訂正しなくても
この場限りだからって意味だろうか?

悩む暇も無いほど、そこからのトレーナーは
何時にも増して饒舌になり

なんでもないことのように
私も気にしなくなっていった




< 11 / 51 >

この作品をシェア

pagetop