お見合い相手は無礼で性悪?



『パパ、ごめんね』


帰りの車の中で“あいつ以外”なら誰でも受けるから
代わりの婿養子を探して欲しいと、何度も何度も懇願したのに


『愛華は誰とも付き合ったことがないからよく分からないだけで、少しずつ理解し合うといいよ』


なんて、父は聞く耳を持ってはくれなかった

そればかりか
週に一度のデートの予約までする始末


強く断れない私は、渋々ながらも会うしかなかった


何故なら・・・


『一翔君とお芝居を観ておいで』とか

『一翔君と水族館へ行っておいで』とか


チケットまで用意された周到な計画は
あいつの家族も巻き込んだものだったからだ



そんな二人は待ち合わせをしても
視線を合わせることなくお題をこなすだけ

常に不機嫌そうな態度は見ていても気分が悪いから
次第にあいつを視界にも入れなくなった


少しずつ打ち解けるかもしれないなどと
淡い期待は一瞬で消え去り

いつもあいつの背中を見ながら歩く癖がついた

時折振り返り足元を見て溜め息を吐くあいつの意図は想像するには価せず


不満があるのなら言えば良いのにと流す


ごく稀に気の利くポイントを見つけても

私の中であいつの存在が底辺から浮上することも“あいつ”や“こいつ”と言う呼び方も変わらない


週に一度の機会はもはや苦痛にも思えていた


だから・・・


お見合いから一ヶ月が経った頃
四回目のデートと言う名の苦行の帰りに

燻らせていた思いが口を突いて出てしまった


『あの・・・』


三度目の呼びかけに嫌々振り返ったあいつは

目線はいつものように遥か上を見つめたまま


『なに』


声だけを私に寄越した


その態度に漸く気持ちが固まった


『この縁組みは無かったことにしてもらうように父に伝えます』


視線が決して絡まないように
あいつの胸元を見ながら告げると


『え?』


少し驚いたような声が聞こえてきた


『理由は?』


細かい理由まで言うつもりもなかったけれど
視線すら合わせないようにしている人に今更何を言えば良いのか想像もつかず

ただ、この状況にも関わらず視線を外したままの態度に怒りがこみ上げてきた


『あなた最低よ!その態度、話し方
お見合いから一ヶ月も経つのに視線すら合わせようとしない
そんな態度で結婚出来ると思う?』


怒りは感情をかき混ぜてきて
それが涙に変わりそうになる

泣いたら負けとばかりに堪える私を


『結婚出来るよ』


小馬鹿にしたように鼻で笑った


一瞬で負の感情に飲まれそうになる気分をどうにか抑えながら


『私はお断り!あなたみたいな人と結婚したら人生お仕舞いだわ!』


不毛だと分かっているのに
視線を上げてしまった


そんな私の意に反して



あいつは初めて
哀しい目を私に向けていた











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