お見合い相手は無礼で性悪?
予告もなく重ねられた唇に息を飲む
想像していたよりも柔らかな印象に
目蓋を閉じることも
呼吸することも忘れた
生まれて初めての
唇を合わせただけの不器用なキスに
驚いた身体は・・
瞳から大量の涙を流した
漸く離れた彼は
私の涙に気付くと、頭の上に手を乗せた
『泣くことないだろ?
後は式を待つばかりの婚約者なんだから・・』
そう囁いた声はとても優しくて・・・
興味がなくても結婚できると言った
同じ口から出たとは思えなかった
『わ、たし、帰ります』
ハンドバッグの持ち手を強く握り締める
火照る頬を隠すように俯いたまま
閉じ込められている腕の間から逃げようとするのに
『ダメだ』
今度は彼の腕の中にスッポリと収められた
『・・・や、だ」
消え入りそうな声は彼には届いていないようで
『逃げんな。どのみちもう
逃げられないから無駄な抵抗はよせ』
背中を摩る手は、宥めるように動いている
こんなヤツのこと、1ミリだって好きにならないのに
強引に閉じ込められた腕の中は暖かくて
心地よく聞こえる鼓動は不思議と安心感を与えてきた
イングリッシュティーは飲むことなく
泣いた顔が落ち着く頃、家に送ってもらった
・・・
初めてのキスをした日から
私の中のあいつは少し変化して
友達と話す時も
『彼』と呼ぶようになった
実質、変わったのはそこだけ
もちろん、彼も
相変わらず週に一度のデートでも
私のことなんて1ミリも興味を見せない雰囲気だった