お見合い相手は無礼で性悪?
デパートに新しく出来たショップは
キャンドルとアロマの店だった
エスカレーターを降りた辺りまで漂う
アロマの香りに誘われて入った店内は
淡い色で統一された棚にズラリと並ぶオイル瓶と
目にも鮮やかなグラデーションに目を引かれるキャンドル
効果的に配置されているスチームに仕込まれたアロマからは癒しの匂いが立ち
揺らめくキャンドルは
どれも素敵でワクワクする
『・・・ここ素敵ね』
アロマの瓶を眺めながら
効能のボードに視線を移した
『気分に合わせてチョイスして貰えるらしいよ』
トレーナーの提案は今の私には魅惑的に聞こえて
カウンターの中でラッピング中の店員さんを見ると、名札に資格が書かれていた
『何かお探しですか?』
接客が終わったのか、声を掛けてくれた店員さんに促されるまま
イライラ、メソメソ、情緒不安定な自分を吐き出した
店員さんは少しも迷うことなく
【クラリセージ】の精油を手に取ると
『気持ちを穏やかにして幸福感を与えてくれますよ』
効果と使用方法を教えてくれた
店員さんのおすすめを購入して
会社に戻るというトレーナーとデパートを出た
『じゃあ』と背を向けようとした私に
『愛華さん大丈夫ですか?』
トレーナーは視線を合わせて眉を下げた
どう考えても腫れた目蓋を隠し忘れて気を使わせてしまった私が悪い
けれど、トレーナーに話せることでもない
『うん』
曖昧な返事しか出来ない私は
俯くことしかできなかった
『結婚・・・嫌ならやめれば良いですよ
ほら、他にもお相手はいるはずですからね?』
なんの根拠もないけど、と
トレーナーは笑って肩に手を置いた
『ありがとう』だけを伝えて帰るつもりだったのに
『そこで、何をしてる』
突然打つかった低い声に肩が跳ねた
・・・っ、なんで
なんて間の悪い時に現れるんだろう
そう思っているうちに
肩に置かれたトレーナーの手を払った彼は
『濱田君だよな?僕の婚約者に
気安く触れないでもらいたいね』
眉間に皺を寄せながらトレーナーに噛み付いた
『これは、失礼いたしました』
唐突に攻撃されたにもかかわらず丁寧に頭を下げたトレーナーは
一度私に向き直ると『じゃあ』と人混みに消えた