お見合い相手は無礼で性悪?



夕方一度自宅に戻って
パーティー用の支度をする


リビングルームで両親と待っていた彼は
私を待つ間に着替えに帰ったようだった

いつもラフにおろされている髪が後方に流され
シルエットの綺麗なスーツは仕立ての良さなのか
いつもより魅力的に思えるから不思議


父に並んで挨拶をすると
『お似合いだよ』と褒めて貰えたけれど恥ずかしくて俯く


ポンパドールを解いて前髪を横に流し
全体をルーズにまとめた髪は

お気に入りの髪飾りもつけた

彼はそんな私を見ながら
口元に握り拳を当ててコホンと咳払いすると


『よく・・似合ってる』


それだけ言うとすぐ背中を向けた


初めて聞いた誉め言葉に
キュンとしてドキドキして
口から心臓が飛び出しそう

お酒を飲むかもしれないと
タクシーで迎えに来た彼にエスコートされて

タワーホテルに着いたのは
夜七時を少し過ぎた頃だった


アート展の会場と同じフロアにある宴会場には

既に多くの人が集まっていて
いくつものグループが出来ていた

受付を済ませて会場の中に入ると
彼を見つけた友人達が次々と呼び止める

それに応える彼を眺めていた私は

気がつけば
壁際に一人で立っていた

父と参加するようになったパーティーや
会社関係のパーティーで壁際に立つことなんてない

心細さに視線が彼の姿を探すように動く

背の高い人達が多い立食パーティーで
彼を見つけることは叶いそうもない

不安な気持ちからなのか
壁に触れている背中は離れそうにもない

脇のテーブルにあるドリンクに手を伸ばすと


少し先に立つ女性二人の声が
耳に飛び込んできた


黄色い声を上げる二人は
とても楽しそうで・・・


一人壁際に残された自分が一層寂しく思えた


ハァと俯いてため息を吐く


『どうかされましたか?』
 

突然降ってきた聞き覚えのない声に
弾かれるように顔を上げる

目の前にはアイボリーのスーツを着た男性が立っていた


・・・誰


長い黒髪を後ろで1つに束ねて
心配そうにこちらを見る穏やかな視線

悪い人では無さそうだけど・・・

返事をすることも忘れ
彼の顔をマジマジと見ていた


『あの・・・僕の顔になにか?』


「・・・あ、ごめんなさい。私ったら
髪の長い男性を間近で見たことがなかったものだから、つい・・』


慌てて謝罪と言い訳を並べる私を

髪の長い彼は大きな口を開けて笑うから

釣られるように吹き出した


壁際でため息を吐く私を心配して声を掛けてくれたのに

失礼な態度しか取れない自分に呆れながら


アート展に作品を出品している学生だという
髪の長い彼のお喋りに


いつしか引き込まれていた





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