お見合い相手は無礼で性悪?





『二人の初めては・・・』


彼がそう言った日から半月後の連休に
山間のロッジに星を見に行くことになった


・・・ついに・・かな


期待と不安と恥ずかしさと・・・
色々な想いが複雑に絡んで

ぎこちない動きになる私を


『緊張してんの?』


意地悪な彼は声を上げて笑った


何をするにも上の空の私と

裏腹に倍速で回っているかのような錯覚さえ覚える時計の針


辺りが漆黒に包まれる頃

テラスに置かれた少し大きなリクライニングチェアに深く腰掛けて

空を見上げた


ほとんど灯りのない山の中では
眩いばかりに煌めく星に手が届きそう


近くで瞬いて見える星に
流れていないのに願いを込めたくなった



『綺麗だろ』


寄り添うように座った彼の声が
オデコの辺りで聞こえる


『えぇ、とても』


彼の温もりを感じながら過ごす夜は

昼間の自分からは想像できないほど
不思議なくらい穏やかで心地良い


繋いでいる手を
恋人繋ぎに絡ませたのは彼


温かくて大きな手


ただそれだけなのにすごく幸せで

安心感で満たされて

なんだか無性に泣きたくなる


口を開くと涙が溢れそうだから

それを誤魔化すように

そっと顔を上げると彼の左の頬に唇を押し当てた



『・・・っ!』


ピクっと反応する彼は
驚いたように目を丸くしていて


もしかして、嫌だったのだろうかと不安になった


『ごめんなさい』


小さく謝って身体ごと離れる


『あ、いや・・・ごめん』


それを阻止するように引き寄せられた身体は
彼の腕の中に収まった


『ごめん、まさか君からキスされるなんて思ってなかったから・・』


聞こえてきた彼の胸の内に
不安な気持ちが一瞬で晴れる

目を細めた彼の顔が近づいて


唇が重なった


一度離れるとオデコを合わせる
睫毛がつきそうな距離で聞いたのは


『好きだよ』


彼の甘い声だった


『・・・っ』


好きだなんて・・・

少なくとも彼の口から
聞くことなんて無いと思っていた


・・・反則


不意打ちのそれは私の中に芽生えていた想いを一層大きくした


嬉しくて


嬉しくて・・・


込み上げる想いが涙を溢した



『どうした?』


涙に気付いた彼は
答えられそうにない私の涙を拭ってくれる


『愛華』


目蓋に唇を寄せた彼の声と温もりが
心地よく心に響いた



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