お見合い相手は無礼で性悪?



『君に“よろしく”なんて頼まれなくても大丈夫だ』


背の高いことを自慢するかのように
こちらを見下げている態度がムカつく
その思いが声に乗り勢いをつけた


『私、トレーナーと一緒に帰るわ!
こんな失礼な人とは1分だって一緒に居たくないもの』


初めから喧嘩腰だった相手に対して言い過ぎたなんて思わない

私の言葉に少し驚いて見せたあいつは
反撃されるかと心配する私の予測を裏切って
意外にもアッサリと目を合わせることなく帰って行った


『ねぇ』


頭の中にモヤがかかった状態を何とかしたい
そう思った私の脳内を読んだように


先に腹拵えと提案したトレーナーに従って
大量の買い物袋を車に積み込むとディナーのお店へと向かった


話題のビュッフェのお店は
天井の高いフレンチスタイル

スクエアの基皿に
小さな食器を組み合わせていくのが
鮮やかで可愛いと女性に人気が高まっているそうだ


充実したデザートコーナーに聳え立つチョコフォンデュも堪能し
お喋りにも花が咲いた120分はお腹も気分も満たされた



帰りの車の中で思い出すのはあいつのことで
トレーナーはフロントガラスを見つめたまま話し始めた


『愛華さん、社長から本当に何も聞いてないですか?』


私が頭を左右に振る様子を確認すると


『愛華さんは一人っ子でしょ?いつかは婿養子を迎えて会社の跡を継ぐ必要がある。それはご存知ですよね?』


そう言うとエンジンを始動させた


・・・え


『待って!もしかして、もしかして
それが・・・あいつってこと?』


酸欠の鯉のように口が開閉を繰り返す私に


『ということになります』


容赦なくトドメが刺さった




今日ケーキを持って5階に下りたとき
トレーナーが聞いたのはこれのこと・・・

溜め息と一緒に視線も落ちる


・・・なんで
幾度となく頭を巡る言葉

・・・なんであいつ?

自分は婿養子と知った上で
失礼極まりない態度なの?


初対面の相手に失礼な言葉を使える
無神経さに悲しさしか感じない


これからの先行きを思うだけで
堪えていた涙が頬を伝った


「・・・」


いつかこんな日が来ることは
小さな頃から嫌という程聞かされて知っていた


一人娘だから・・・

置かれた境遇を恨んだことはない



けれど・・・


こんなはずじゃなかった


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