漆恋を解く僕たちは。
またいつもの場所で、いつもと同じ本を読んでいる。


どこまでも広がる気持ちのいい草原、雲一つない空


なのに私はこんなにも退屈で。


どうして私はここに来たの?


ここにきてどれくらい経っただろう?




私の名前は紗夜«さや»。


双子座のAB型で27歳、好きなことは読書、それから押し花を作ること。

ちょっとした財閥の娘として生まれた私は小さな時から病弱で、それでもみんなに大切に大切に育てられた。


忘れられない、辛いことも…あったけど、優しい旦那様と結婚して小さな宝物も授かった。



そして私は使命を果たして、自分の一番大切なものを守ってここへやって来た。









もう何年も前な気がするし、そんなに経ってないかもしれないけど、


私がここに来たのは天国に向かう道の途中だった。


一本だけ、道がスーッと延びていて、私は何時間も一人でそこを歩いてきた。


それから道の両脇に私の暮らしていたお屋敷の、見慣れた扉がそれぞれ1枚ずつ見えてきたの。


左側に見えたのは2階の一番奥にあった銀色のノブのついた古めの扉。


………私が人生で一番愛した男性«ヒト»の部屋だった扉。


右側には私がまだ小さかった頃使ってた部屋の、薄ピンクにお花柄の書かれた扉。


(―――――…この扉を選んだら、もう1度会えるの…?)


銀色のノブを何度も握った。


それでも扉を押す勇気はなくて。


またあの人に会えたとして、もう1度別れなきゃならなかったら・ ・ ?


(…会いたいのに…怖い…。)


結局私は懐かしいピンク色の扉を選んだ。



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