漆恋を解く僕たちは。
« 紗夜said»

彼に家を出したあと私も自分の家に向かう


それから一人がけの椅子に座って小さめに作られた窓から空を見上げて今日の1日に思いを巡らせる


突然現れた、雅也さんにそっくりな彼は゛筧 悠也゛と名乗った。


筧――――…私の大切な人、雅也さんの苗字も゛筧゛だった


彼は男の人にしては白い肌、さらっと流れる焦げ茶の髪、それに合わせたような茶色の目をしていた。


゛かっこいい゛よりも゛綺麗゛が似合っていて、何よりも雅也さんに瓜二つだった。


優しい笑顔も自然とにじみ出る知的さも、音楽が好きで芸術肌なところも。


彼は本当に雅也さんにそっくりで。


それに…英語の先生?


雅也さんは私にとってお世話役であり、愛した人であり…ドイツ語の先生だった。


同じ苗字で雅也さんとこんなにそっくりで…

彼は、゛筧 悠也゛はいったい…?


答えの出ない質問はいつまでも私の中でこだました。


それから私はベッドに潜り込んで雅也さんのことを考えた。


「雅也さん…私達、また会えるのかしら…。」


ログハウスの天井を見つめながら、、息に混じって聞こえないくらいの、声にならないような声で呟いた。


口にするだけで、願うだけで、
こんなに切ない一番の願い。


私は自然と溢れる涙を放置してそのまま目を閉じた。
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