影と闇
そもそもこの人がいったい誰かわからない。


だけどこの人が傘を持ってきてないことは事実であるようなので突っぱねたりはせず、傘の中に入れることにする。


「いいですけど、私、ちょっと急いでるんです。傘で雨やどりしてる場合じゃないでしょう?」


雨で濡れた部分を乾かそうとしている男性に声をかける。


こんなことに時間をかけると、本当に先生に怒られちゃうよ。


この人のせいで大遅刻してしまうのなら、この人のことをほっぽりだしてでも行かなければならない。


傘を男性から離そうと移動した直後、男性が私の手首をパシッと掴んだ。


えっ?


彼の行動にますます意味がわからなくなる。


頭上にクエスチョンマークを浮かべる私に、彼が微苦笑を浮かべてみせた。


「わかってるよ、こんな天気じゃ集合場所に間に合わないんでしょ? 俺も。グループで遠くまで行ったら帰りに雨が降ってきたから焦ったんだ。傘も持ってなかったしね。まぁ、自業自得だけど」


えっ、そうなの?


この人もどこかわからない集合場所に遅れそうなんだ。


あれ、ちょっと待って。


今、“グループで遠くまで行った”って言ったよね?


この人は、私と同じ修学旅行に来た2年生のうちのひとりってこと?


この人も修学旅行生なの?
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