影と闇
あまりの衝撃に開いた口がふさがらない。


なにか言おうとしても心の中のつぶやきを口にすることがなかなかできず、口をパクパクと動かすことしかできない。


そんな私の様子に沖田くんは一瞬びっくりした顔を見せたが、すぐに笑顔に戻った。


「はじめてだよ、俺の顔を見ても名前をすぐに呼ばれなかったの。女子って俺の顔見れば名前を言い当てるから、片桐さんもすぐに言い当てるのかと思ったんだよね」


そんなことを言われても。


顔も性格もイケメンな沖田くんの存在は知っていたけど、どこかですれ違ったり、声をかけるチャンスはこれまでに一度もなかったもん。


一回会って話した人なら顔と名前をセットにして覚えるタイプだからだろう。


彼の場合は、名前は知っていてもどんな顔かがわからないのだ。


私以外の女子全員は絶対に沖田くんの顔と名前は事前に記憶しているかもしれないけどね。


心の中でそうつぶやいてたら、いつの間にかふさがらなかった口を閉じられるようになり、少し驚く。


口を一回閉じてみたが、それと同時に口の中に微量の水が入っていたことに気づいた。


呆然として口を開けすぎたあまり、強い雨の水が私の口に入ったらしい。


偶然入ってしまった雨水をどうすればいいか悩んでると、沖田くんが慌てた顔で私の手を握ってきた。
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