影と闇
こくんと小さくうなずいて、沖田くんの手からそっと自分の手を離して距離をとる。


危ない危ない。


もう少し手をつないだ時間が長かったら、沖田くんファンの女子になんて言われることか。


でも、これでもう沖田くんファンの子全員を敵にまわしたことは確定だ。


嫌がらせとかいじめとか受けるだろうな。


2年生全員がいるところから離れて、バレない可能性が一番高い後方に隠れる。


これ以上注目を浴びたくないからだ。


傘をさしながらカタカタと体を小刻みに震わせる。


隠れはじめてからほんの数秒で、誰かに声をかけられてしまった。


「茅乃! ちゃんと戻ってこられたんだね、よかった!」


うしろからそんな声が聞こえたかと思ったら、突然抱きつかれた。


言動だけで誰なのか最初から私はわかっていた。


「蘭子……」


私の肩から覗く爪が長く伸びていて、鮮血を思わせる真っ赤な色をしている。


クラスの女子どころか2年生女子で爪を赤くする子は蘭子以外いない。


蘭子と普段一緒にいる子たちもマニキュアをするけど、蘭子ほど派手にしない。


ほとんどパステルカラーだったり目立たない色だったり。


今度私もマニキュアに挑戦してみようかな。


心の中でそう宣言したところで、理子ちゃんの姿が前方に見えた。
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