影と闇
なぜかはわからない。


でも、沖田くんと偶然会って話したのは奇跡だと思う。


決して大袈裟ではなく、沖田くんと会った瞬間はまさに奇跡だったのだ。


もし私がコンビニで雑誌を買おうと思わなかったら、沖田くんと会わなかっただろう。


地味な私と手をつないでくれた王子様の沖田くん。


異性として好きになったわけではないけど、ファンの子が沖田くんを好きになるのもわかる。


心の中でそうつぶやき、自分の行動に間違いがなかったことに感謝する。


胸を撫でおろしたそのとき、ふと蘭子の背中越しに目をやると、幽霊のように立っている女の子を見つけた。


末那だ。


視力はあまりよくないけど、服装と髪型で末那だと判明できた。


絶対に末那……のはずなのに、末那は殺せそうな目つきで睨んでいた。


修学旅行のグループ決めのときより目つきが鋭くて怖い。


もしかして、私が沖田くんと一緒に来たことが気に入らなかったのかな。


でも、沖田くんを好きになったとは聞いていない。


睨む理由が沖田くんと来たせいではないなら、いったいなんだろう。


末那の視線に怯えながらも、じっと見つめて首をかしげる。


気のせいだ。


心の中のもうひとりの自分にそう言い聞かせたと同時に、末那が目をそらした。


末那の表情がとても憎らしいものだったことに、このときの私は気づかなかった。
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