影と闇
それは本当のことだ。


自分が一番ほしいと思っている服やアクセサリーが見開きページに載っていることには最初は気づかなかったが、部屋に入ってペラペラとめくったときに気づいた。


笑顔を向けたことで蘭子の表情が少しだけやわらいだ。


「そうなんだ。でもこのページの特集のテーマって茅乃に合ってるからさ、着たら似合うと思うよ」


着たら似合う、ね。


載ってる服を着てみたい気持ちはあるけど、それを買う勇気がないというかなんというか。


だけど、それよりも気になる単語が聞こえてきた。


今開いているページの特集のテーマが私に似合う、という言葉だ。


本当に私に合ってるのかどうかはさておき、そう言われるのはやはり嬉しいものだ。


「えっ、そうかな? これ着たら似合う?」


「うん。今のその格好も茅乃にピッタリだから、可愛く着こなせるんじゃない?」


ニコニコと満面の笑みを浮かべる蘭子。


言葉になにか別のことを思っているのではないかと思い、彼女の表情をまじまじと見つめるが、裏の声が聞こえなかった。


本気でそう思ってるってこと?


私の神経が過敏になっているなら蘭子の心の声が聞こえてくるはずなのに、なぜかそれが耳に届かなかった。


蘭子が本気でそう思っているなら、ちょっと冗談で言ってみようかな。


ほんの少しだけいたずら心が芽生えてきて、つい蘭子に冗談をぶつけてしまう。
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