影と闇
エレベーターが着いて乗り込もうとしたとき、蘭子が驚いた声をあげた。


「あっ、沖田くんだ!」


「……っ!」


思わず肩を震わせてしまう。


どうやら蘭子も沖田くんの存在に気づいたらしい。


その声を振りきるようにエレベーターに乗り込む。


そんな私に理子ちゃんが慌てて隣にやってくる。


「どうしたの茅乃、もしかして沖田くんとなんかあったの?」


「べ、べつに……」


目をそらしたのは反射的だ。


理由なんてひとつもない。


ただ、沖田くんと目を合わせたら、それを見た女子たちからいじめを受けるのではないかとヒヤヒヤしているだけ。


殺されるよりもはるかに苦しむ方法で私を痛めつけるんだ。


そう思うと、沖田くんの顔を見られなくなる。


だけど私の気持ちなんておかまいなしに、エレベーターを待っていた蘭子や沖田くんなどの全員が話しながらエレベーターに乗り込んできた。


大丈夫、大丈夫。


私がずっと目をそらして視線を下に落としてることには気づいていないから。


こんなところで誰かに監視されてるわけじゃあるまいし。


そもそも私を監視する人がいるのかどうかが疑問なんだけど。


こんな地味な私を監視しているとしたら、いったい誰が、なんのために監視しているだろうか。
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