影と闇
なんて言えるわけがなく、ただ両手で腕をさすることしかできない。


そのことを蘭子に言えば、他の生徒にも混乱を与えることになるかもしれない。


私を見ている末那も心に深いダメージを負う可能性は十分にある。


言わないほうがいい。


傷つけないほうがいい。


もうひとりの自分にそう言い聞かせ、末那から目をそらす。


「ちょっと寒くなったのかも。傘さしたけど、腕がびしょ濡れになったから冷えたみたい」


バレないように努めて明るく言った。


そうだよ。


体を震わせたのは雨で冷えたせいだと言えば、きっと誰もが納得する。


体が冷えたんだと思わせたらいいんだ。


引きつった笑みを浮かべた私に、蘭子が私の腕をそっと触る。


「うわ、冷たっ。茅乃、腕冷たいよ。風邪ひく前に先生に言って休めば?」


どうやら本当に体が冷えたらしい。


今言ったのは、混乱を与えないようにするための嘘だったのに、まさか本当に冷えたなんて。


だけど冷えたという確信がないので、ブンブンと首を横に振った。


「勘違いだよ、きっと。雨水が体に触れるだけで体が冷えるわけないもん」


そう、勘違いだ。


打ちつけるような大雨に打たれて体調が悪くなるならわかるけど、傘をさしても風邪をひくなんてことはありえない。
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