影と闇
言葉と同時に出した両手を顔の前で思いっきり振ったものの、その手をいつの間にかこちらに来ていた末那に掴まれた。


おそるおそる末那に視線を向ける。


そこにあるのは、私が今まで見た笑顔とまったく同じもの。


だと思っていたが、末那の笑顔の裏になにか黒い感情がオーラとなって出ているような気がした。


満面の笑みとは言いがたい笑顔。


恐怖心に包まれた私をさらに恐怖の穴へとおとしいれる笑顔に見えた。


「茅乃ちゃん。先生の言うとおり、部屋で休んでたほうがいいよ」


そんなことを末那に言われても信用できない。


私の勘がその言葉が本音ではないと告げていた。


本当はそんなことなど1ミリも思っていない。


『バチが当たったのよ、バチが』


『あんたが集合場所に来るまで沖田くんと手をつないだからこうなったの』


言葉にはしていないが、笑顔の裏に真っ黒な気持ちが隠れていると感じた。


もし末那が裏の顔を持っていて、私に本音をぶつけていたら、私の精神はもうすでにボロボロになっていただろう。


だけど末那は私には言葉のナイフを向けたことは一度もない。


そう思いながら動揺する私を尻目に、蘭子が末那をギロリと鋭い目で睨みつける。


それでも末那は表情ひとつ変えずに私を見つめ続ける。


「……そうだぞ。片桐、今は部屋で安静にしていなさい」
< 133 / 376 >

この作品をシェア

pagetop