影と闇
うまく言葉を出せずに下唇を噛みしめると、エレベーターのドアが開いた。


乗ろうかどうしようか悩んだが、それと同時に手を引かれ、結局中に入ることになった。


やがてドアが閉まって上へ上がっていく音がして、沖田くんのほうに顔を向ける。


その横顔は少し怒っているように見えた。


「沖田くん……?」


聞こえない程度の声で言葉をかけたのに、なぜか沖田くんは私の声に反応したみたいにこちらに顔を向けた。


突然顔を向けられたのであとずさりする。


「片桐さん、ごめんね」


えっ?


沖田くんに謝りの言葉をかけられるとは思っていなくて、目をしばたたかせる。


ていうか、なぜ沖田くんは私に謝るの?


首をかしげた直後、私の気持ちが伝わったかのように沖田くんが言葉を続ける。


「もし俺が傘を持ってれば、こんなことにはならなかったよね。本当にごめん」


こんなこと?


沖田くんがなにを伝えたいのかわからない。


しかもこちらに体を向けて頭をさげる姿を見せられたら余計にわけがわからなくなる。


「な、なんのこと?」


「集合場所に行く前に偶然会ったよね。雨が降ってたのに俺、傘持ってなくて。急ぎたかったから片桐さんの傘に一緒に入って集合場所に向かったよね?」
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