影と闇
こんなに責めるなら、体が冷えたのかもと思ったのは自分のせいじゃん。


バカだな、私。


顔も性格もいい沖田くんに相手にされたっていい気になったから、バチが当たったんだね。


じわっと目頭が熱くなったと同時に、エレベーターのドアが再び開いた。


そこで、ようやく私が泊まる【509】のあるフロアに着いたのだと察する。


ここまで来たから、さすがに沖田くんは見送りをするのだろうと思ったが、なんとエレベーターのドアが開いたなりそのまま私の手を引いてスタスタと歩きはじめた。


予想もしていない彼の行動にびっくりして声が出なくなる。


驚きを隠せない私を置き去りにするように早歩きをする沖田くん。


彼にとっての早歩きは、私にとって小走りでは済まないスピードだ。


なんせ、足遅いし。


心の中で苦笑いしてる間に、私の前を歩く足がピタッと止まった。


目の前に映る背中に顔面をぶつけそうになり、慌てて体に急ブレーキをかける。


「片桐さんの泊まる部屋ってどこ?」


なんだ、そんなことか。


足が急に止まった理由が判明し、ポケットに入れておいた【509】の鍵を取りだしながら沖田くんに部屋番号を教える。


「えっと、【509】だよ」


「【509】ね。わかった」
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