影と闇
部屋番号を言っただけでどこにあるかわかるんだ。


探せば絶対に見つかるから言わないけど。


私が部屋番号を教えた十数秒後、沖田くんは迷うことなく【509】の部屋の前にたどり着いた。


「あっ、今ドア開けるからちょっと待って」


ドアが視界に現れたところで我に返って沖田くんを通り越し、鍵穴に鍵を差し込んで施錠を解いた。


ドアを開けて中に入り、その場にとどまる沖田くんに頭をさげる。


「沖田くん、部屋の前まで来てくれてありがとう。私はベッドで休むから安心して。先生や蘭子たちに大丈夫だって言ってくれる?」


これ以上私についてきてもらうのは困る。


さっきからドキドキが止まらないから。


ファンの子たちに恨みを持たれたら、沖田くんだって後悔すると思う。


恨みを持たれたのなら、なんで私に優しくしたんだって。


はじめから私に優しくしなかったら、私はドキドキしなかったと思うし。


再び頭をさげてドアを閉めようとしたそのとき、ドアが小さい音を立てて止まった。


なにが起こったかわからなくてあたりを見まわす。


見まわしてから十数秒でなるほど、と納得した。


しかしそれと同時に目を見開いた。


私が閉めようとしたドアが沖田くんの手によって動きを止めて、沖田くんが自分の体をこちらに近づかせていたから。
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